社会保険労務士試験は、労働や社会保険に関する法律からなる試験ですが、学習においては法律の全体像を把握することが重要となります。
今回は、社会保険である『国民年金法』について概要を紹介します。
『国民年金法』は、老齢・障害・死亡のリスクに対し公的保障を行う国民年金について定めた法律です。
国民年金被保険者の種類・保険料
現在の公的年金制度は、原則20歳以上のすべての国民が加入、基礎給付を行う国民年金、および会社員や公務員に上乗せ支給される厚生年金保険から構成されます。
国民年金被保険者には、法律上被保険者となる『強制加入被保険者』と、任意の申出により被保険者となる『任意加入被保険者』があります。
強制加入被保険者は、第1号~第3号被保険者の3種類に分類されます。
というイメージを持たれている人が多いと思いますが、厳密には以下のように年齢要件や国内居住要件も存在しています。
第1号被保険者
第1号被保険者となるのは、以下の要件を満たす者です。
- 第1号被保険者および第2号被保険者いずれにも該当しない
- 20歳以上60歳未満
- 日本国内に住居を有する(または日本国内に生活の基礎がある)
第2号被保険者
第2号被保険者となるのは、以下の要件を満たす者です。
- 厚生年金保険に加入している会社員や公務員
- 年齢要件なし
- 国内居住要件なし
第3号被保険者
第3号被保険者となるのは、以下の要件を満たす者です。
- 第2号被保険者に生計維持されている配偶者
- 20歳以上60歳未満
- 日本国内に住居を有する(または日本国内に生活の基礎がある)
保険料
国民年金の保険料は、第1号被保険者および任意加入被保険者が納付対象者となります(第2号被保険者および第3号被保険者は厚生年金保険として納付しているため)。
保険料の額は以下の計算式で毎年改定されます。
さらに、第1号被保険者の独自制度として、1カ月あたり400円(付加保険料)を追加納付することにより老齢基礎年金を上乗せ(付加年金)する制度もあります。
国民年金給付の種類
国民年金には、大きく被保険者の種類にかかわらず共通で給付される「老齢基礎年金」、「障害基礎年金」、「遺族基礎年金」、および、それ以外にも第1号被保険者の独自給付(付加年金、寡婦年金、死亡一時金、脱退一時金)があります。
以下、それぞれの給付について支給用や支給年金額を中心に紹介します。
老齢基礎年金
老齢基礎年金は、老後に働けなくなり、所得が無くなることに対する生活保障です。
支給要件
老齢基礎年金の支給要件は、以下の2点です。
- 65歳以上であること
- (保険料納付済期間+保険料免除期間+合算対象期間)≧ 10年
「合算対象期間(通称:カラ期間)」とは、国民年金への加入が任意(海外在住など)である期間に加入しなかった期間で、年金額には反映されないものの、受給資格期間に参入されます。
支給年金額
支給額は以下の計算式で算出されます。
※改定率は毎年度改定
この金額は保険料納付期間が480月(=40年)ある者の満額で、保険料納付済期間や免除期間によって減額されます。
支給の繰上げ・繰下げ
老齢基礎年金の支給開始年齢は原則65歳ですが、支給の開始を早める、または延期の選択ができます。
支給の繰上げ
65歳前に厚生労働大臣に支給繰上げの請求をすることで、減額するものの、年金を繰上げ受給できます。
支給の繰下げ
66歳以降に厚生労働大臣に支給繰上げの申出をすることで、増額し、年金を繰下げ受給できます。
障害基礎年金
障害基礎年金は、傷病などで一定の障害が残った場合に、働けなくなり所得が無くなることへの生活保障です。
支給要件
障害基礎年金の支給要件は、以下の3点です。
- 初診日に国民年金の被保険者であったこと
- 障害認定日に障害等級(1級または2級)に該当すること
- 保険料納付要件を満たしていること
※保険料納付要件は、原則、「初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、『保険料納付済』+『保険料免除期間』が被保険者期間全体の2/3以上を満たしている」ことです。
支給年金額
支給額は、「障害等級」で決まる基本額、および「子どもの人数」で決まる加算額の和で算出されます。
基本額
障害等級1級 | (780,900円× 改定率)× 1.25 |
障害等級2級 | 780,900円× 改定率 |
子の加算
1人目・2人目 | 224,700円× 改定率(1人あたり) |
3人目以降 | 74,900円× 改定率(1人あたり) |
※子どもが18歳の年度末まで加算
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、主たる生計者が死亡した場合の、遺族に対する生活保障です。
支給要件
遺族基礎年金の支給要件は、「死亡した者」と、「遺族」の要件両方を満たす必要があります。
死亡した者の要件
遺族基礎年金の支給要件として、以下のいずれかを満たしている必要があります。
- 死亡日に国民年金の被保険者であった(かつ保険料納付要件を満たしている)こと
- 死亡日に老齢基礎年金の受給権者(あるいは相当の者)であること
※保険料納付要件は、原則、「死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、『保険料納付済』+『保険料免除期間』が被保険者期間全体の2/3以上を満たしている」ことです。
遺族の要件
遺族基礎年金を受給できる遺族は、以下の2種類です(いずれも死亡者が主たる生計者である必要があります)。
- 18歳未満の(または20歳未満で一定障害がある)子ども
- 上記に該当する子どもと生計を同じにする配偶者
支給年金額
支給額は、受給者が配偶者の場合と子どもの場合で算出方法が変わります。
配偶者が受給
遺族基礎年金の基本額は『780,900円× 改定率』、子どもの数に応じ下記が加算されます。
1人目・2人目 | 224,700円× 改定率(1人あたり) |
3人目以降 | 74,900円× 改定率(1人あたり) |
子どもが受給
子どもの数に応じ支給額が変わります。
1人目 | 780,900円 × 改定率 |
2人目 | 224,700円× 改定率 |
3人目以降 | 74,900円× 改定率(1人あたり) |
第1号被保険者の独自給付
第1号被保険者の独自給付には、付加年金、寡婦年金、死亡一時金、脱退一時金があります。
この中でも寡婦年金、死亡一時金、脱退一時金の3つは、保険料の掛け捨てを防止するしくみとなります。
付加年金
付加年金は、付加保険料を納付した第1号被保険者が、老齢基礎年金の上乗せで受給する年金です。
支給額は以下の計算式で算出されます。
寡婦年金
寡婦年金は、老齢基礎年金を受給できる夫が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受給せず亡くなった場合に、保険料の掛け捨てを防止するために妻が受給できる一時金です。
支給要件として、妻が以下を満たしている必要があります。
- 60歳以上65歳未満であること
- 夫の死亡当時、婚姻関係が10年以上あり、生計を維持されていたこと
支給額は、「夫の第1号被保険者期間について計算した老齢基礎年金の3/4」です。
死亡一時金
死亡一時金は、国民年金被保険者であった者が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受給せず亡くなった場合に、保険料の掛け捨てを防止するために遺族が受給できる一時金です。
支給要件は保険料納付済期間36カ月以上となり、保険料納付期間に応じて支給額が増加します。
脱退一時金
脱退一時金は、短期在留外国人が国民年金に加入、保険料納付していたものの支給を受けることなく帰国となる場合、保険料の掛け捨てを防止するために請求できる一時金です。
支給要件は保険料納付済期間6カ月以上となり、保険料納付期間に応じて支給額が増加します。
まとめ
今回は『国民年金法』について紹介しました。
社労士は法律の試験であるため、制度詳細や条文にフォーカスしてしまいがちですが、法律の位置づけや全体像を把握することが重要になります。
長い社労士学習においては、試験勉強のフェーズにかかわらず、下記の入門本に立ち返ってみるのもオススメです。
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